その声は今も心の奥で響いている
広いキャンパスの片隅にある電話ボックスの前で
僕達はいつも待ち合わせた
僕がいつもバイトで疲れて遅れても
君はいつも微笑んで迎えてくれた
君はいつも無口で 僕ばかりが喋っていた
時々思い切ったように話す声は
いつも聞き返さなければならない程小さかった
君はいつも無理をしないでと言った
無理の意味が分からなくて 僕はいつも困った
僕達は形の見えない夢を いつもぎこちなく話した
若さというパスポートで お互いを信じていた
季節は僕達を追い越して行き 1年はあっという間に過ぎた
キャンパスには新しい学生が行き交っていた
僕達は変らず電話ボックスの前で会って
僕だけが喋り 君は黙って聞いていた
それはレモンのように甘酸っぱいひと時だった
僕が大学を辞める決心をして 君に打ち明けた時
君は何も言わず 静かに泣いていた
僕達は手を繋ぎ 黙って道路を歩いた
どこまでも どこまでも歩き続けたかった
君は何も言わず 静かに泣き続けていた
僕が電話で 君にサヨナラを言った時
君は泣きながら 初めて大きな声で
「忘れないで!」と叫んだ
僕は受話器を握り締めたまま 静かに泣いた
君がもう一度叫んだ時 僕は受話器を置いた
その声は今も 僕の心の奥で響いている
今も心の奥で響いている