突撃!アンコールワット]W

Music:Miko

 33.おかしな夢

 いよいよシェムリアップ最後の日だ。今日の夕方にはタイのバンコクに戻らなくてはならない。

 朝6時に目が覚めると、隣のベッドでは既にM君がザックの整理を始めていた。廊下に出てK君の部屋をノックして彼を起こした。

 中庭からGHの外に出ると、1人の青年が立っていて、僕に話しかけてきた。なかなか日本語も上手だ。彼は今日ポイペトへピックアップトラックに乗って行き、そこでGHの宿泊客を何人か受けて帰る予定とのことで、このバプーンGHのスタッフの一人のようだ。

 彼と宿の前の丸太に座って少し話をした。

 「日本人はとても真面目でいい人が多いが、総じて偉そうにする傾向がある」と彼はいきなり僕に言った。僕は彼の表情を窺ったが、ニコニコしながら喋っているので、特に悪意は持っておらず、率直な感想として述べたようだった。

 「でも日本のおかげでカンボジアは少しずつよくなっています。私も日本語は毎日勉強していますが、日本語はとても難しいです。クメール語は簡単です。先に内容があって、あとに主語です。すぐに話せるようになりますよ」

 彼はこのように続けて言ったと記憶しているが、もしかして一部記憶違いがあるかもしれない。

 いずれにしても、シェムリアップはアンコールワットという遺跡が唯一の観光資源であるから、現地で観光関係に係わっている人は、ここを訪れる欧米人と日本人のために英語と日本語を話せることが、彼等の生活に不可欠なことなのかも知れない。

 彼と握手をして中庭に戻ると、テーブルには朝食のサンドイッチが用意されていた。いつの間にかM君とK君、それにSさんも中庭に出てきていた。3人でサンドイッチを食ながら雑談をした。サンドイッチは卵と野菜とが挟んであって、ドレッシングの加減がちょうどよく、とても美味しかった。他のGHは知らないが、このバプーンGHの朝食サービスは、簡単ではあるが宿泊客にとってはありがたいものだ。

 7時を過ぎてピックアップトラックが到着した。

 2人に握手をして、別れを言った。彼等は往路の砂埃まみれのアウトサイド(荷台)が懲りたので、帰路はインサイド(車内)を申し込んでいた。

 ザックを荷台に載せてスタッフが乗り込み、彼らも後部席に乗るとアッという間に出発してしまった。車が最初の道路を曲がるまで、僕とSさんとはずっと手を振りながら佇んでいた。

 「僕は3時頃には出発するので、1時頃に昼食を食べましょうか」とSさんと約束をして部屋に戻った。

 9時過ぎまで寝た。おかしな夢を2つも見た。

 カンボジアにいるからカンボジアの夢を見た。アンコールワットの遺跡群を、汗を一杯かきながらも嬉しそうに見て回っている僕の夢だった。それは夢ではなくて、今回既に実現したのに、どうして夢に見るのかおかしかった。

 もう一つの夢は、トンレサップ湖近くのプノンクロム山に登る途中で出会った少女のものだった。彼女は何かを訴えるような目で、上目遣いに僕をじっと見ていた。それは何を言おうとしているのか、夢の中の僕は何度も何度も問いかけているのだが、彼女は答えようとはしなかった。

 目が覚めたら、体全身が汗びっしょりだった。

 シャワーを浴びて髭を剃り、中庭に出た。中庭は停電していて暗かった。

 最後にシェムリアップの町にもう一度出た。

 オールドマーケットでバイタクを降ろしてもらい、マーケットの中に入って行った。ここでは衣類から電化製品、日用雑貨、さらに食料品に至るまで何でも売られており、すごい活気とすごい生活臭だ。

 Tシャツを2枚(1枚2ドル)購入してシェムリアップ川沿いを歩いた。途中から雨が降ってきた。シェムリアップ滞在中で初めての雨だった。

 僕は小雨の中、シェムリアップの街並みを脳裏に焼き付けるように、ゆっくりゆっくりと宿の方に向かって歩いた。

 


 34. さよならアンコールワット 完結

 小雨のシェムリアップは緑も多く、改めて綺麗な街だと思った。

 宿への途中、滞在中ずっと晩御飯を食べた屋台レストランに立ち寄り、マンゴーアンドパイナップルの最後のシェイクを飲んだ。

 宿に戻り、シャワーを浴びてパッキングをすませ、ボーっとしているとSさんが部屋を覗き、午後から遺跡回りに出るので、昼食は早めにしませんかと言ってきたので、12時半に約束をした。

 最後の昼食(左のぼかした女性はSさんです)

 昼食は、「最後だから豪勢な者を食べましょうよ」ということになり、道路を渡ったところの小奇麗なレストランを選んだ。お昼時だというのに僕達が入っていくと客は1人もいなくて、この店の料理の味にちょっと不安を感じたが、それは取り越し苦労だった。

 注文したチキンカレーとチキンヴェジタブルスープ、野菜炒めは、いずれも量が多いだけでなく、味も絶品に近かった。スープは大きな鍋に入って出てきてとても豪華で、ライスにココナッツジュースとコーラを合わせても、何と会計はちょうど10ドルだった。

Sさんは、「今朝行っちゃったM君やK君にこの料理を見せてあげたいですね」と言うので、食べにかかる前に写真に収めた。

 さて会話もそこそこに勢いよく食べ始めたのだが、いくら2人が食欲旺盛でも、意外なほどたくさん出てきた料理の量に、結局全部食べきれず、スープは3割ほど残してしまい、チキンカレーも辛くてとても美味しいのだが2割程度残してしまった。カンボジアに来て、出された食べ物は絶対に残さないぞと誓っていたのだが、もろくも崩れてしまい、やや心残りなことをしてしまったと今でも少し後悔している。

 滞在中、彼女に世話になったので、ここは太っ腹なところを見せて、10ドルは僕が支払った。僕でもキチンと出す時は出すのだ。(笑)

 今回の旅は何度も言うようだが、性格の良い若い人に恵まれたおかげで、アンコールワット遺跡めぐりを楽しめたのだった。彼等や彼女は意識していなくとも、僕はとても世話になったと思っている。

 

 満腹のお腹を抱えながら宿に帰ると、Sさんはすぐに遺跡回りに出た。日本に帰って機会があればまた会いましょうと言って別れた。

 部屋に戻り、飛行機の時刻までまだ少し時間があるので、虚脱感とともに1時間程まどろんだ。

 最後の写真撮影(左は次男さん)

 時間になったので中庭に出た。現時点でこのGHに宿泊客はSさん1人になってしまった。今日は朝からM君とK君がポイペトに向かったが、その折り返しに何人かの客を受けて戻ってくるのだとスタッフが言っていた。シェムリアップにはどんどんGHが増えているので、競合も大変なのだろう。

 陽気な次男さんと中庭で並んで写真撮影をして、長男さんのバイクで空港まで送ってもらうこととなった。滞在期間中の宿代とバイタク代と食事代として合計53ドルを支払った。内訳は宿代が4泊分でちょうど10ドルで、バイタク代が36ドル(バンテアイ・スレイまで行った日は普段の倍以上の値段が設定されていた。アンコールワット辺りから相当な距離があったから)、あとは飲み物やちょっとした食べ物の代金である。

 シェムリの町から空港までは結構な距離があった。バックパックを背負ってバイクに跨り、約15分くらいだっただろうか。これはGHのサービスに含まれているのかどうかちょっと考えたが、このままありがとうはいサヨナラというのもちょっと気が引けた。

 シェムリアップの空港税が、ある有名ガイドでは20ドルと書いていたので(結果的に8ドルだった)、その金額を残して3ドルを彼に手渡し、「これ少ないけど僕の気持ちです。来年春の結婚資金の足しにしてください」とジョーク気味に言った。

 彼はあの素晴らしい笑みを顔に浮かべ、「是非また来てください、お待ちしています」と言い、僕に握手を求めてきたので、その手を握り、本当に気分よく別れたのだった。

 シェムリアップのバイタクの男性たちの中には、女性と見るやセックス目当てにナンパしまくっている奴や、バイタク料を吹っかけてきたり態度の悪い奴もいると聞くが、僕が世話になったGHのスタッフは全員が真面目で親切であった。特に長男さんは顔に性格の良さが出ており、穏やかな人柄の中にも芯の強さが窺えるしっかりした人物だったと思う。

 バンコクまで50分ほどのプロペラ機の中で、僕は出されたサンドイッチや飲み物を口にしながら、今回の短期の旅を振り返った。

 バンコクで一泊し、列車でアランヤプラテートに行き、国境でヴィザを取得。ピックアップトラックに乗り、埃まみれの道中を日本の大学生を始め数人のバックパッカーと経験した。GHも快適だったし、スタッフも良かった。アンコールワットは予想通り、理屈ぬきでため息がつくほど素晴らしかった。一ノ瀬泰造氏の墓標も訪ねることができて目的も達した。僅か6日の旅でもこれだけの内容のものが得られるのだ。一つ心残りは、体調を壊してしまって、帰路を飛行機にしてしまい150ドルも余計に費用がかかってしまったことだ。

 シェムリアップだけがカンボジアでは勿論ないので、短絡的に結論は出せないが、少なくとも治安は特に問題はなく、人々も親切であった。観光客は欧米人と日本人が半々程度だったが、日本の若者のアカンタレ複数旅行者と、中年のおばちゃんグループが目立ったが、これは仕方がないだろう。

 僕は眼下に遠ざかって行くカンボジアの青々とした田園風景を懐かしい感慨で見送りながら、再度この国を訪問する日も遠くはないと、何故か確信のようなものを感じたのだった。

 

-おわり-

 この物語はこれで完結です。

 感想をいただければ本当に嬉しいです。どのようなことでも結構です、どうぞお寄せください。

 先だって10日間ほどタイのバンコク近郊を旅してきました。

 この話はメールマガジンにはしませんが、僕のHPで連載をさせていただいております。意外な展開や、考えさせられる出来事など、様々な面白いことに遭遇しました。是非覗いてみてください。

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 それでは皆様、長らくの間ありがとうございました。

 

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